「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」著:朝丘 戻/ill:yoco

あらすじ

書誌情報
「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」
著:朝丘 戻/ill:yoco [価格:本体1,800円+税]
ISBNコード:978-4-86134-786-3/判型・仕様:四六判ソフトカバー

人物紹介

試し読み

「その図鑑、おもしろいの」
 たたみかけられて、とうとう「あの、」とひきつった声がでた。
「しずかにしていただけるんでしたよね」
「リンも本に集中できてないみたいだったからいいかと思って」
「してます。このページを見ていたいんです」
「そう」
 暁天さんの視線が俺の手もとにむけられた。「……鳩か」と呟く。
「キジ鳩はうたうけど、カラス鳩はうたわないんだよね」
 喉がぐっとつまった。歌のことについて真っ先に指摘されるとは思ってもみなかった。
「誰かに教わったんですか」
 瑛仁さんと兄弟一緒に動物園かどこかで得た知識なのかと推測したのだが、
「好きな人にね」
 と彼は目をにじませて微笑した。何百年も遠くからそそがれているようなあの空虚な眼ざしだった。そんな顔をされたら、れいの亡くなった恋人のことなんだろうとわかってしまう。
「すみません」
 気まずくなって図鑑をとじた。
「謝ることはないよ」
 彼も文庫本をとじて俺のほうへ身体を傾ける。
 真横から見つめられたまま時間がすぎていく。穏やかで真綿みたいに優しく、でも突き刺さるほど情熱的な視線を感じて心地悪くなり、雁字搦めに縛られて身動きがとれない。
「リン、これから俺のうちへこない」
 誘う声にも疑問符がないせいで、ほとんど諦めているように響いた。
「……司書の人と話していたんじゃないんですか」
 一度やめた疑問が口を衝いてでる。
「話してたよ。彼女に用事があって今日ここにきたけどそっちはもうすんだ」
「電話番号つきのしおりをたくさんの男や女に配って歩くのが暁天さんの用事なんですね」
「彼女は大学で知りあった友だちで、古い本のことで相談を受けてたんだよ。しおりはつくるのが楽しくてひとつお裾わけしたけど、電話番号を書いたのはリンだけ。心からきみを想ってるよ」
 熱情を含んだ淡々とした口調で、彼は言ってのけた。疑念を入れる隙のない完璧な説明と口調で、嘘偽りを感じない真剣さにかえってひどく困惑する。
「というか、彼女は俺の電話番号を知ってる。ゲイだってことも、好きな相手がいることも」
「公言してるんですか」
「してるよ。ずっとそうしてきた。意味のない恋愛事に煩わされるつもりはないしね」
「……俺には意味があるっていうんですか」
「きみは俺のすべてだよ」
 断言を左耳だけで受けとって黙した。
 困るのは、彼の言葉がどれだけ真実らしく聞こえても不信感しか湧いてこないことだ。理解できない想いを一方的にぶつけられていると恐ろしくなってくる。
「暁天さんは俺をなにも知らないはずです」
「知ってることはこのあいだ言ったよ」
「あてずっぽうじゃないですか。俺の口から教えたわけじゃない。あなたは俺を都合のいい人格に想像してるだけにすぎません」
「都合のいい想像じゃないって確信を得たいから今日時間をちょうだいよ」
「できればお断りしたいです」
「いつまでそうやってとじこもってるの。既婚者との半端な恋愛に酔って一生終えるのが幸せだって本気で思ってるわけじゃないでしょう」
「幸せです!」
 逆上して声が荒れた。
「恋心は意地で保つものじゃないよ」
 暁天さんは目を据わらせて冷静に諭してくる。異様な凄みがあって威圧感にたじろいだ。
 この人は恋愛を知っているんだと思った。強い眼力には他人をねじ伏せるための獰猛さではなく、経験や信念からくる憤怒を感じる。
 嘘をつくなと。愛し愛された者を失ってもなお愛することの幸福と孤独をおまえはなにも知らないだろうと、心をじかに鷲掴んで訴えられているようで背筋が凍る。
 無意識に息をとめていた。暁天さんの瞳は揺らがず、俺を見据え続けている。力強いのに、同時にとても弱々しい哀しみをたたえた目。そらしたいけどそらしたら負けだと考えて見つめ返しているうちに、これこそ意地だと自覚した。
「……リン、」
 わかっている。俺は恋愛を知らない。瑛仁さんとのあいだにも愛情はない。これまでもきっとこれからも永遠に片想いだ。
 好きだと言ってみたかった。好きだと言われてみたくもあった。恋人のようにどこかへふたりきりででかけてみたかった。毎日でも一緒にいたかった。心細い日には電話をしたかった。嫉妬をぶつけたかったし、ぶつけられたかった。瑛仁さんのものになりたかった。彼のものになって死にたかった。恋する喜びは経験できたけれど、俺は全然幸せじゃない。
「リン、俺のところにおいで。ずっときみの傍にいるから」
 前にむきなおって俯くと、図鑑の上に涙が落ちた。慌てて拭う。
「いこう」
「え、ちょっと、待ってください、」
「もう待たない」
 立ちあがった暁天さんに肩を抱かれるようにして立たされた。
「これは借りるわけじゃないよね」と数冊の図鑑を淡々と重ねて持たされ、一言も発せぬ間に棚へ誘導されてしまう。
「本を戻したら駐輪場へいこう。今日は自転車できたんだ」
 暁天さんは終始丁寧な態度で俺を促す。強引さはないからいま一度きっぱり断って立ち去ることもできそうだったが、頭でシミュレートするだけで実行にうつせないまま階段をおりていた。
 ——いつまでそうやってとじこもってるの。既婚者との半端な恋愛に酔って一生終えるのが幸せだって本気で思ってるわけじゃないでしょう。
 ななめ左前を歩いていく彼の後頭部を見やる。あなたといてなにが変わるというんだ、と挑戦的な心持ちでいた。他人の俺に対して、好きだ守りたいすべてだと宣言した責任をどうとるというのか。
 カフェの前へくるとさっき裸ん坊で走っていた子がミートソースを口にべったりつけてパスタを頬ばっていて、胸にふっと温もりが兆した。
 しかし図書館をでたら一気に暑気と蝉の鳴き声に襲われ、うわっと顔をしかめて爪先をつっぱり、脚をとめてしまった。自動ドアと外界のあいだに見えない熱の壁がある。空気が弾力と重力を持ってゼリーみたいになっていて、これに埋もれてすすんでいかなきゃならないしんどさに嫌気がさした。
「暑いな」
 暁天さんはむしろ嬉しそうに笑う。からりと笑うと急に人間らしくなって、いつもまとっている虚無感が消えるのが意外だった。「いこうか」とまた促されて、もう観念すべきだなと踏みだす。
 駐輪場はすぐ横にあって、屋根がないせいで自転車たちが太陽光に炙られていた。暁天さんの自転車は鮮やかに濃い青色をしており、うしろにステップがついている。
 ワイヤー錠をはずして自転車のむきをくるりと変え、サドルに座った暁天さんは、
「いいよ、ステップに立って肩へ掴まって」
 と微笑んだ。
 ふたり乗りなんて危険だ。なのに、乗りたい、と好奇心が疼いたときには片足をかけていた。
「ハンドルとサドルが灼けちゃってあっついな」
「〝あっつい〟ですか」
「火傷しそうなぐらいだよ。今度から日陰を探してとめよう」
「あ、そうだ待ってください、日傘さします」
 手に持っていた日傘を片手でひろげて、右肩にななめにたてかける。
「準備完了です、どうぞ」
「……リン、俺にも相あい傘してもらえたら嬉しいんだけど」
 頭が燃えそう、と暁天さんが請うてくる。
「どうしてもですか」
「なんでそこで意地悪するの」
 目の前にある暁天さんの黒髪は触らなくても熱気を感じる。おたがいの頭が陰るように傘を傾けてあげたら、「ありがとう」とお礼を言ってペダルをぐっと踏みこんだ。
 走っていく。もったりしていた自転車が徐々に加速して耳に、髪に、服に、風を感じる。生温い空気が頬や腕の表面を撫でてまとわりついてながれていくのと、全身を包む浮遊感とが心地いい。
 暁天さんの髪やワイシャツもゆらゆらはためく。うなじから首筋にかけてうっすら汗がにじんでいて、彼の肩にのせた自分の掌にはかたい骨の存在感がある。
 とおりすぎていく民家や歩道に植えられた草木の緑、騒がしい蝉の声、温い夏風。すれ違う子どもの笑い声、買い物途中の主婦、おじいさん。太陽のまぶしさ、世界が焼け焦げたような夏の匂い。
 ぐらつく日傘をしっかり掴んで固定しながら自転車の揺れに身をゆだねる。十字路や信号の前で一時停止して再びすすむ単純なくり返しにすら心が弾んでいく。
 初めていく土地へ足をのばしたことで、ひ弱な身体と手強い夏に打ち勝ったような達成感を味わっていた。生まれてからずっと〝両親の目の届く範囲〟が生活圏だったのに、いま母親が知らない相手と一緒に、自分も知らない町へきている。本当の自由と自分自身を手に入れた。ほんのすこし罪悪感があるのも、それだけ自分が親に従順にしてきた証拠なのだろう。今日ぐらいルールを破ってみたい。誰かに決められた道をはずれて、自分で拓いた道を闊歩してみたい。
 瑛仁さんと〝友だち〟だったら、こんなふうに炎天下のなかを出歩いて遊んだりもできたんだろうか。
〝客と店員〟よりはさらに親しいであろう〝友だち〟の自分と瑛仁さんが、自転車にふたり乗りしたり、町を歩いて蝉の鳴き声に邪魔されながら会話したりするのを想像しつつ、ながれる情景を眺めた。心から楽しんで笑いあい、うしろめたさの欠片もなく見つめあえる妄想のなかの自分たち。
 ところが思い耽っていたのも束の間、次第に腕が灼けて頭痛が始まり、意識まで朦朧としてきた。いよいよ酸素不足の魚状態だ。さっき買ったオレンジジュースを飲もうかとも思ったが、喉を潤したところで全快しそうにない。どこかすずしい場所へ寄りたい。
 家族以外の人に体調不良を悟らせるのは嫌いなので普段ならひた隠しにしてやり過ごすけど、今日のこの感じはやせ我慢すると余計に迷惑をかけそうだった。
「暁天さんの家ってどこですか」
「リンの町から駅ふたつぶん先だよ。あと十五分ぐらいかな」
 十五分か……。素直に〝辛い〟と言おうと決心したら、
「身体辛い? 俺も暑いからコンビニ寄ってアイスでも食べようか」
 と先手を打たれてしまった。驚いて、「あ、はい」と、ふらついた返事になる。
 コンビニは二分としないうちに現れた。暁天さんはすいっと自転車を駐輪場に入れてとめると、店へ促してくれる。冷房がごうごう鳴るほどきいていて生き返るが、まだ立っているのも厳しい。
「リンはどのアイスがいい」
「ええと……俺はどんなでも、」
「じゃあアイスフロートにしようか」
 暁天さんが指さすカウンターのほうに、ねじまいたアイスクリームののるフロートのポスターがある。ソーダ、メロンソーダ、オレンジジュース。
「オレンジフロートがいいな」

前のページへ次のページへ

特別企画

オリジナル壁紙ダウンロード

「Heaven’s Rain 天国の雨」のカバーイラストを壁紙にしました。
ぜひご利用ください!

クリックで画像が開きます。保存してご利用ください。

書店員様の声

今回、前半200ページ弱を先行して書店員様に読んでいただきました。
そこで、感想の一部をご紹介致します!!

感想をお送りいただきました書店員の皆様、ありがとうございました。

クリックで拡大表示します

朝丘戻先生スペシャルインタビュー

新作「Heaven’s Rain 天国の雨」は朝丘先生の初の四六判小説であり、448Pという大ボリュームの1冊になりました!
そんな特別な1冊の発売を記念して、作品のこと、朝丘先生のことをたくさん伺いました!

●作品について

———本作のテーマ、内容を簡単にお教えください。

自分が小説をとおして訴え続けている、自身の幸福観がテーマの柱です。

それを再び新たに鮮やかに掘りさげるために、
今回は現代ファンタジーという世界で、羽根のないおじさん天使と、病弱な少年の出会いを描きました。

———この作品を描こうと思ったきっかけはなんですか?

降りてきた、としか言いようがないです。五年前のことです。
きっかけは作品によって違いますが、今作は最初におじさん天使である暁天と、彼と恋するリンの姿が見えてきたので、そこから物語をかためていきました。

———執筆期間はどのくらいでしたか?

約半年と一ヶ月です。

———凜、暁天の名前の由来などはありますか?

由来はありません。 名前はいつも、ぱっと浮かんだものを故意に与えています。
逆に、ぱっとでないときは「この人はいま生まれる運命じゃないんだな」と思っていったん放置したりするんです。

ただし名前にあてた漢字には、全員理由があります。
作品を読んでくださったかたに、彼らの人格などから感じとっていただけたらとても嬉しく思います。

———凜、暁天のイメージモデルがいましたら教えてください。

絵をお願いする際にyoco先生に伝えた髪型、髭、なんかのモデルはいます。
齟齬がないようにしたかったからで、それ以上でも以下でもありません。
が、内緒にさせてください……わたしは思い出すたんびに笑ってしまいます。
yoco先生はどう感じられたんだろう。
ファンというわけでは、なかったんです、格好いいとは思ってるけど……。

———最初に生まれた人物は?

上記でさきにご紹介させていただいてしまいましたが、暁天とリンのふたりです。

———先生が一番描きたかったシーンはどこですか?

すべてです。

———書いていて楽しかった、また辛かったシーンなどはありますか?

すべて楽しくて、すべて胸が苦しかったです。

———初めての四六判・小冊子付き限定版ということで、一番ここをこだわった! という点があったら教えてください。

すべてにおいて細部まで手を抜かないこと、をいつも以上に心がけました。

作品は、出版社、担当、挿絵担当の絵描きさん、読者様への贈りものだと思っています。
内部にはどんなに迷惑をかけてもかまわない、素晴らしい一冊にしてそれで責任をとるから、とにかく読者様に胸を張って贈れるものをつくる、と考えてつねにむきあっています。
今回も自分の作家力のなさと、そのうえでの四六判を出版するという責任の重さを自覚していたぶん、物語、絵、キャッチ、装丁、帯、販売方法、なにもかもすべて真剣にとりくみ、ご尽力くださる方々とともに丹精こめてつくってきました。
一番、なんてありません。
すべてにおいて全員の心と努力がつみ重なって生まれた、こだわりの一冊です。

●朝丘先生について

———朝丘先生が小説家になろうと思ったきっかけはありますか?

ある作家の作品に出会ったのがきっかけです。

昔「やおい」を激しく嫌悪していたころ、親友が「わたしハマったかも……」と告白してくれて、「これはいけない。親友の気持ちを理解しなければ」と手にとった本がその小説でした。
それまでわたしも絵を描いていましたが、その小説に出会ったとき「自分の書いている絵に意志があるのか?」と思い至って絶望しました。
空っぽだったんです。本当は限界も感じていました。絵には劣等感も向上心も芽生えなかったから。

それでその想いを若気の至りで作家さんへ手紙にしたためて送ったら、わたしの「意志を持って、他人に伝えるためのものを書きたいと思った」という言葉に、「あなたがデビューしてくるのを待っていますよ」というお返事を頂戴してしまいました。
「えっ、デビューなんてだいそれたことは考えてなかったのに……」と動揺しましたが、次の瞬間にはワープロを抱えて部屋へ駆けこんでいました。

その後デビューしたあとは作家さんに直接ご報告にもいきました。
いまでもわたしにとってその方以上の作家はいませんし、支えであり原点です。
一生超えられない、超えるつもりもない師。
自分の人生に対して運命なんて大仰なものをあげるとしたら、これが唯一の、その奇跡です。

———執筆中にしていること、たとえば聴いている音楽など、欠かさないことなどございますか?

ある物を身につけて、それをつけているあいだは作品の彼らに恥じる行為は絶対にしない、と誓っています。
飲酒とか、エッチな本を読むとか、そういう欲望の一切を禁止するんです。

音楽は作品イメージにあわせた一曲を延々とリピートし続けます。
だいたいしっとりした曲なので、たまに頭が破裂しそうになります。

だから執筆が落ちついたらエッチな本を読んでがちゃがちゃした曲を存分に聴きます。けど、またすぐ我慢できずに書き始める、というループです。
余談ですが、雑誌ダリアさんで連載が始まる西野先生原作の漫画がすげえ楽しみなので、エロ解放期間にまとめ読みしよう、と計画しています。

———執筆中に筆が止まってしまった時は何をしてリフレッシュしていますか?

とまるというか、次に彼らがどういう行動をするのか、なにを言うのか、見えなくなるときがあります。
そうすると散歩します。 公園を抜けてコンビニへいって、木々や鳥や子どもを眺めていると脳内の視野もひろがっていき、作品の人物たちが自然と動きだします。

———先生の一番の癒しとは何ですか?

小説を書くことです。

———先生の宝物を教えてください。

挿絵をお願いした絵描きさんの絵たち。
読者様から頂戴した手紙やプレゼントたち。
小説を書き始めてデビューもしていなかったころ、初めて手紙をくださったかたからもらった木彫りの天使。

担当や友だちや読者様がくれた言葉も、と言おうと思いましたが、宝物というよりは、わたしを学ばせて導いてくれる光でした。

———先生の作品には、魅力的な女性がよく登場されますが、女性を描くときのこだわりや先生ならではの決めごと等ありましたらお教えください。

「同性愛の辛さ」を描くことも信念としているのですが、それは男女それぞれがいてこそ成りたつものだと思っています。
なので、ボーイズラブの場合は女性も率先して真摯に描いていきたいと考えています。
個々の性格や外見にこだわりはあれど、むしろ純粋に好きな想いでしか描いていません。 女の子も大好きです。

そういった信念があることから、挿絵をお願いする絵描きさんに対しても「女性も楽しく描いている人」というのをひそかに条件にさせていただいています。
ツイッタなど拝見して「女の子のおっぱーい」とかおっしゃっていると、よしお願いしよう、と意気ごむんです。

———今までの作品の中で担当編集との打ち合わせで一番印象に残った出来事はありますか?

どんなことも日々の端々でよく思い返します。

大事にしているのは、一作目の『君に降る白』のあと「編集者になる前から朝丘さんのこと知ってたよ」と聞かせていただいたのを機に、おたがいいろいろ披瀝した日のことです。
どうやってわたしの担当になったのか教えてくれましたし、わたしもなにに悩み、なにを目指しているのか、すべて話しました。
それはいまもおなじで、パートナーとして自分の葛藤は包み隠さず話すようにしていますし、「朝丘さんなんなのもう…」とあしらってくれる人柄に救われてもいます。
ドライかと思いきや、『あめの帰るところ』の修正をしていたとき、わたしが『携帯電話で一番星の写真を撮ったよ』と書いた部分に対し、「月にしましょう。だってわたしも携帯電話で星を撮ったことありますけど、撮れなかったから!」と指摘してくれた、乙女な人だったりもします。
ツイッタでも裏話をしましたが、Skypeで話ながらわたしが真剣に文章修正しているってのに、チャットで「\(^o^)/」とか送って邪魔してきて「暇なんだもん」とか可愛いことも言います。
担当になって一番最初に「わたし褒めませんから」と宣言してくれたところも好きです。手放しで持ちあげる人やお世辞言う人が担当だと、読者様に喜んでいただける本がつくれないので。
おたがい真剣すぎるので、本をつくっていると毎回必ず一度は険悪なムードになるんですけど、和解する都度、それまで以上に絆が深まっているのも感じます。

出会ってから七年のつきあいになります。 信頼している担当にも恩返しになる作品を贈り続けていきたいです。

———今回、タイトルにも「雨」という言葉が入っており、また朝丘先生自身も「雨」がお好きとのことですが、先生が「雨」をお好きな理由はなんでしょうか?

小説を書き始めたころから不思議とつきまとわれるようになりました。
昔はそんなことなかったのですが、いまは執筆に熱中していたり、重要な場面を書いていたりすると外に雨が降っています。
それに、曇り空のときに外出すると必ず降ります。
連れがいて降ってくると「やっぱりね」「わかってたけどね」とため息をつかれます。
会社員だったころ先輩に「あんたと一緒に帰ると降るからひとりで帰って」と拒絶されたのがいまでも忘れられないです。結局降ってげんなりさせました。
でも晴れすぎていると蒸発して倒れてしまうので、雨のしずけさとすずしさがやっぱり心地いいです。

———先生が作品を書くなかで、一番嬉しい瞬間とはどんなときですか?

登場人物たちが幸せなのも苦しいのも、恋する相手に出会えた証拠なのでそれぞれ全部嬉しいです。

ふたりの心が通じあう瞬間は心も震えて、初めてのキスとか、手繋ぎとか、セックスとか、触れあうときは涙がでるぐらい一緒に嬉しくなります。
セックスシーンも、その後のピロートークもお風呂も、いつまでもいつまでも書いていたくなります。
好きで好きで片想いで報われないあいだも、傷つくことのできる幸せを強く感じて満たされます。
たとえ一緒にいられなくなっても、相手の存在が刻まれたその後の人生は孤独じゃなく幸福に違いない、だからやっぱり嬉しいです。

———最後に読者の方にメッセージをお願いします。

これまで自身のことを「作家」「小説家」と言うときは、そこに到達していない自分への戒めのような気持ちがつねにありました。

書いてきた作品に後悔はありませんし、しません。そのときの精一杯だったと言い切れます。
ですが反省点は必ずあり、自分は未熟な成長途中のままで、作家、小説家と堂々と言うには力不足であると歯噛みしていたのです。
だから文章や物語づくりについて勉強しながら、どうしたら自分の伝えたいことが多くの読者様に伝えられるか、出版社にも絵描きさんにも読者様にも喜んでいただけるかと、作品を書くごとに懊悩し続けてきました。

考えすぎてがちがちになっていたその自分の心が晴れたのが『坂道のソラ』以降です。
あのころ、あ、この歩き方で間違ってなかったんだ、と思えました。
成長したくてどんなに悩んでも、その悩みの方向が間違っていたら意味がありません。でも「正解」の尻尾を掴むことができたのです。
しかしそれはわたしの力ではなく、yoco先生の魅力的な絵が読者様の心をこちらにむけてくださったのが大きなきっかけだったのだと自覚しています。
yoco先生がくれたものは、たしかな一筋の光明でした。

今回、四六判というお仕事を頂戴して『Heaven's Rain 天国の雨』のふたりが降りてきたとき、わたしのなかに再びyoco先生の絵で彼らが生き始めました。
ただでさえ責任重大なのに、『ソラ』を好いてくださった読者様にも『ソラ』と同等かそれ以上の感動をお贈りしなければならない、yoco先生の名前も汚すわけにはいかない、というプレッシャーも背負ったわけなのですが、それでいい、挑みたい、挑める、と思いました。

そうして完成した今作は確実にいままでのわたしではない、でもわたしらしさが満ちあふれた一歩です。
ようやく自分のことを作家で小説家だと、気後れなく言えるようになりました。

とはいえ一歩にすぎません。遅すぎる一歩です。
反省しつつ、今後も成長していくために努力し続けていきます。
なので、よろしければまず『Heaven's Rain 天国の雨』の彼らに会ってやってください。

死別の場面もありません、別れもありません、切なくて泣ける物語でもありません。
唯一の相手と永遠に結ばれる喜びに満たされて、熱い至福感で胸が千切れる、ごくごく単純な物語です。 これがわたしの幸福観です。

お贈りするために、魂を削って制作陣全員で細部までこだわり抜いて、大事につくりこんできました。
読者様の心にも触れることができましたら、こんなに幸せなことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします。

yoco先生の人物ラフ公開

yoco先生による、人物ラフイラストです。

クリックで拡大表示します

WEBサイン会開催!

「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」の発売を記念して、WEBサイン会を開催します。

アニメイトオンラインショップにて、3/30(月)正午より受付スタート!!
お申込はこちらから↓
http://www.animate-onlineshop.jp/products/detail.php?product_id=1324220

受付けは終了いたしました。
 ご参加くださった読者の皆様、ありがとうございました

TOPへ戻る