「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」著:朝丘 戻/ill:yoco

あらすじ

書誌情報
「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」
著:朝丘 戻/ill:yoco [価格:本体1,800円+税]
ISBNコード:978-4-86134-786-3/判型・仕様:四六判ソフトカバー

人物紹介

試し読み

「どんな家族にどんな愛され方をしてどんな学生生活をおくったのか、いまどこでどんな暮らしをしているか、とか」
 興信所に依頼して調べたという線はうすれた。だが俺を知ってどうするつもりだろう。
 暁天さんがなにを欲しているのかわからなくなってきて、握り締めた拳に力がこもり掌が汗ばむ。
「一言では、難しいです」
「たしかにそうだね。俺も過去を話すにはだいぶ時間を要す」
 暁天さんが俯いて左脚を踏みだし、また歩き始めた。
「いまいくつ」
 彼は質問の声も平坦で疑問符を感じられない。
「……二十一です」
 こたえて、俺もあとをついていく。
「大学生」
「いいえ」
「専門学校には」
「……いえ」
「会社勤めしてるようすでもないよね。弁当屋のバイトだけなのかな」
 自立していないと言われているようで決まり悪く、押し黙っていると暁天さんがふりむいた。
「安心して、俺は学歴できみを判断しない」
 それを素直に信じられるほどお人好しじゃない。
「住まいは実家なの」
「一応、いまはひとりです」
 数秒沈黙した暁天さんは、永遠かと思うようなゆっくりしたまばたきをした。
「病気のリンのささやかな自立生活か」
 確信した物言いで言いあてられて瞠目する。
「な、んで、わかるんですか」
 病のことは二年間つきあってきた瑛仁さんさえ気づいていないのだ。
「経験上」
「どんな? 暁天さんは医者かなにかですか。いや、医者だっていまの会話だけじゃ、」
「俺はしがない古本屋の店長だよ」
「古本屋……」
「本はいい。知識もつくし、正しい言葉も学べるからね」
 混乱する。
 古本屋の店長が兄夫婦のあいだに割って入ってきた同性の病弱なガキに、警告するためでも懲罰を与えるためでもなくつきまとう目的っていったいなんだ。
「腹を探りあうのは苦手です。単刀直入に目的をおっしゃっていただけませんか」
「わかった、正直に言うよ」
 暁天さんが俺の正面へ近づいてくる。
「兄から手をひいて俺のところへおいで」
 絶句した。
「俺は結婚してない。つきあう相手としても適してるでしょう」
「意味が、わかりません。暁天さんに鞍がえさせて兄夫婦や家族を守りたいってことでしょうか」
「一石二鳥だとは思う」
 人間扱いされてない。厄介な荷物を箱につめて右から左へ移すだけのことだと聞こえて憤慨した。
「こんなこと言える立場じゃありませんが、俺にも一応感情があります。別れるなら瑛仁さんと話してきちんと終えて、そのあとはもう彼とも、彼の家族のかたとも関わる気はありません」
「兄と俺はべつの人間として考えてほしいって言ったでしょう。俺は個人的にきみに好意を抱いてる。自分の欲に従ってきみに執着してるんだよ」
「どうして俺を?」
「一目惚れした、ってことにしておこうかな」
「ばかげてます。そもそも暁天さんはゲイなんですか?」
「ひとりの人しか好きになったことがないから性癖は曖昧だね」
「その人も男だった?」
「……うん、そうだよ」
 突飛すぎてついていけなかった。全部が胡散くさすぎる。一週間そこら弁当屋の客と店員として接しただけでろくな会話もしていないのに好意もなにもあるものか。〝おまえは邪魔だから消えろ〟と怒鳴られたほうが納得いくのになんでこんなまどろっこしいことを? 厄介払いするだけじゃ生温い、恋仲になって思いあがったころに手酷く捨てて傷つけてやろうって魂胆なんだろうか。
 真正面にいる暁天さんが儚げな、しかし真剣な眼ざしで俺を見ている。反射的に一歩退いたら左手をさしのべられた。
「俺が守りたいのはきみだよ。一緒にいてほしい。この命もそのためにある」
 にぶく照る月の下で、こんな告白をされたのは初めてだと驚嘆し、同時に思考が停止した。


 図書館で本を読んでいても文字が一切頭に入らなかった。
 諦めて音楽の視聴コーナーへいってヘッドフォンでアンビエント音楽を聴いていると、心に生えた無数の棘がようやくいくらか削げ落ちていった。
 ——兄から手をひいて俺のところへおいで。
 実の兄が家庭の外で関係を持っている男相手に、一目惚れだなんてふざけた告白をする弟がいるだろうか。
 ——一石二鳥だとは思う。
 たしかにそうだ、暁天さんと恋仲になるのは既婚者の瑛仁さんとつきあうより迷惑の範囲が狭まる。だが彼はそれは結果であって目的ではないと言う。
 ——俺が守りたいのはきみだよ。一緒にいてほしい。この命もそのためにある。
 なにが狙いなんだろう。
 ひとりだけ好きになった男がいたとも言っていた。俺がその人に似ていたから一目で気になって弁当屋に通っていた、という繋がりだとしても俺の人格は無視されているわけで無関係にかわりない。
 変わった弟、の意味はこれだったんだろうか。失礼だけど、瑛仁さんが暁天さんを邪険にしていた理由がだんだん見えてきた気がする。
 さっき瑛仁さんからメールがきた。『今夜いいかな』だけの端的な、いつものうかがいメール。
 瑛仁さんに相談しようかと昨日から思案している。
 彼の弟についてだ、躊躇う必要はない、と思うのだが、いかんせん俺は彼の恋人ではない。
 出会ったころからいまもずっと、瑛仁さんと俺は個と個だ。
 彼が俺の部屋にいてさえつねに一線をはっているように、俺も彼に干渉したことがない。俺たちは幾度身体を重ねようとなにをしようと自由である。それはなけなしの免罪符であり、彼だけじゃなく俺にとってのルールでもあった。つまり俺が誰と恋愛を始めても、瑛仁さんにも干渉する権利はないのだ。
 けどだからこそ話してみたい欲もあった。瑛仁さんは俺がほかの男に告白されたと知ったらどんな反応をするだろう。嫉妬してくれるだろうか。
 くだらない無意味な夢想だ、と自分に呆れ返る一方で期待がふくらむ。
 怒られてみたい。おまえは俺のものだ、と所有欲を叩きつけられてみたい。嫉妬心が沸騰する一瞬だけでも自分はこの人のものなんだと実感したい。
 恋欲をむきだしにして関係に色をつけるのを、俺たちはさけ続けてきた。非常識な関係ながら守ってきたそのけじめを破壊して、生々しい恋情が闖入する隙をつくるまたとないチャンスじゃないか。相手が弟ならなおのこと効果的に違いない。
 相談を持ちかけるのは正当な行為だ、と己に言い聞かせて不毛な欲求を満たそうとしている。
 俺はこれほどまでに瑛仁さんが好きだったんだなと、こんな非常時に思い知る。

 夜中の沈黙のなかで自分の貪欲な思惑だけがうるさくわめいている。瑛仁さんの寝顔を見つめていると脳内が余計乱れ狂うので、寝返りを打って天井を見あげるが、静寂がはりつめて鳴るキーンという耳鳴りに鼓膜を刺激されて落ちつかない。
 しかたなくベッドからでてキッチンへ移動し、コップに麦茶をそそいで飲んだ。飲みほしていま一度部屋へ戻り、ベッドの縁に座ってガラス戸のむこうの屋根越しに夜空を眺めていたら、
「凜」
 瑛仁さんが目をさましてしまった。相変わらず寝起きとは思えない機敏な動作で上体を起こす。
「眠れないの」
「喉渇いただけだよ、ごめん」
 瑛仁さんも麦茶飲む? と訊いたらうなずきが返ってきたので、再びキッチンまで往復した。コップを渡すと一気に半分以上飲んでしまって、「ふたりして喉渇いてたんだね」と笑いあった。
 暗がりに溶けこんでいる彼の笑顔を凝視して探る。見えない、掴めない、とわずかでも落胆するのがいまはどうしてもいやだった。
「……今夜はあまり気分じゃなかった?」
 瑛仁さんが俺の肩先を左手で撫でて問う。微笑み返して濁すと、続けて、
「弟が接触してきてないか」
 と彼のほうから暁天さんのことを切りだしてきた。
「弁当屋にきてくれてるよ」
「なにか言ってきた?」
 不自然にならないようそっと唾を飲みこんでから口をひらく。
「つきあってほしいって言われた。一目惚れだって」
「そうか……」
 瑛仁さんは仰天するでもなく、納得したような嘆息を洩らした。
「あいつは本当に変な奴なんだよ。どう変なのかはうまく説明できないんだけど……」
 暗闇にひそむ彼の表情を慎重に見つめたが、疲れに似たため息と苦笑しかない。もしかして一目惚れ云々に関してはすでに本人から聞いていたんだろうか。
「瑛仁さんは暁天さんのことを〝弟〟って呼ぶね」
「ああ、あいつも俺を〝兄さん〟って呼ぶからな。昔から兄弟らしくなかったから呼び方にも表れるのかもね。あいつの言う〝さん〟はなんていうか、敬称っぽくてよそよそしい」
「仲よくなかったの」

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書店員様の声

今回、前半200ページ弱を先行して書店員様に読んでいただきました。
そこで、感想の一部をご紹介致します!!

感想をお送りいただきました書店員の皆様、ありがとうございました。

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朝丘戻先生スペシャルインタビュー

新作「Heaven’s Rain 天国の雨」は朝丘先生の初の四六判小説であり、448Pという大ボリュームの1冊になりました!
そんな特別な1冊の発売を記念して、作品のこと、朝丘先生のことをたくさん伺いました!

●作品について

———本作のテーマ、内容を簡単にお教えください。

自分が小説をとおして訴え続けている、自身の幸福観がテーマの柱です。

それを再び新たに鮮やかに掘りさげるために、
今回は現代ファンタジーという世界で、羽根のないおじさん天使と、病弱な少年の出会いを描きました。

———この作品を描こうと思ったきっかけはなんですか?

降りてきた、としか言いようがないです。五年前のことです。
きっかけは作品によって違いますが、今作は最初におじさん天使である暁天と、彼と恋するリンの姿が見えてきたので、そこから物語をかためていきました。

———執筆期間はどのくらいでしたか?

約半年と一ヶ月です。

———凜、暁天の名前の由来などはありますか?

由来はありません。 名前はいつも、ぱっと浮かんだものを故意に与えています。
逆に、ぱっとでないときは「この人はいま生まれる運命じゃないんだな」と思っていったん放置したりするんです。

ただし名前にあてた漢字には、全員理由があります。
作品を読んでくださったかたに、彼らの人格などから感じとっていただけたらとても嬉しく思います。

———凜、暁天のイメージモデルがいましたら教えてください。

絵をお願いする際にyoco先生に伝えた髪型、髭、なんかのモデルはいます。
齟齬がないようにしたかったからで、それ以上でも以下でもありません。
が、内緒にさせてください……わたしは思い出すたんびに笑ってしまいます。
yoco先生はどう感じられたんだろう。
ファンというわけでは、なかったんです、格好いいとは思ってるけど……。

———最初に生まれた人物は?

上記でさきにご紹介させていただいてしまいましたが、暁天とリンのふたりです。

———先生が一番描きたかったシーンはどこですか?

すべてです。

———書いていて楽しかった、また辛かったシーンなどはありますか?

すべて楽しくて、すべて胸が苦しかったです。

———初めての四六判・小冊子付き限定版ということで、一番ここをこだわった! という点があったら教えてください。

すべてにおいて細部まで手を抜かないこと、をいつも以上に心がけました。

作品は、出版社、担当、挿絵担当の絵描きさん、読者様への贈りものだと思っています。
内部にはどんなに迷惑をかけてもかまわない、素晴らしい一冊にしてそれで責任をとるから、とにかく読者様に胸を張って贈れるものをつくる、と考えてつねにむきあっています。
今回も自分の作家力のなさと、そのうえでの四六判を出版するという責任の重さを自覚していたぶん、物語、絵、キャッチ、装丁、帯、販売方法、なにもかもすべて真剣にとりくみ、ご尽力くださる方々とともに丹精こめてつくってきました。
一番、なんてありません。
すべてにおいて全員の心と努力がつみ重なって生まれた、こだわりの一冊です。

●朝丘先生について

———朝丘先生が小説家になろうと思ったきっかけはありますか?

ある作家の作品に出会ったのがきっかけです。

昔「やおい」を激しく嫌悪していたころ、親友が「わたしハマったかも……」と告白してくれて、「これはいけない。親友の気持ちを理解しなければ」と手にとった本がその小説でした。
それまでわたしも絵を描いていましたが、その小説に出会ったとき「自分の書いている絵に意志があるのか?」と思い至って絶望しました。
空っぽだったんです。本当は限界も感じていました。絵には劣等感も向上心も芽生えなかったから。

それでその想いを若気の至りで作家さんへ手紙にしたためて送ったら、わたしの「意志を持って、他人に伝えるためのものを書きたいと思った」という言葉に、「あなたがデビューしてくるのを待っていますよ」というお返事を頂戴してしまいました。
「えっ、デビューなんてだいそれたことは考えてなかったのに……」と動揺しましたが、次の瞬間にはワープロを抱えて部屋へ駆けこんでいました。

その後デビューしたあとは作家さんに直接ご報告にもいきました。
いまでもわたしにとってその方以上の作家はいませんし、支えであり原点です。
一生超えられない、超えるつもりもない師。
自分の人生に対して運命なんて大仰なものをあげるとしたら、これが唯一の、その奇跡です。

———執筆中にしていること、たとえば聴いている音楽など、欠かさないことなどございますか?

ある物を身につけて、それをつけているあいだは作品の彼らに恥じる行為は絶対にしない、と誓っています。
飲酒とか、エッチな本を読むとか、そういう欲望の一切を禁止するんです。

音楽は作品イメージにあわせた一曲を延々とリピートし続けます。
だいたいしっとりした曲なので、たまに頭が破裂しそうになります。

だから執筆が落ちついたらエッチな本を読んでがちゃがちゃした曲を存分に聴きます。けど、またすぐ我慢できずに書き始める、というループです。
余談ですが、雑誌ダリアさんで連載が始まる西野先生原作の漫画がすげえ楽しみなので、エロ解放期間にまとめ読みしよう、と計画しています。

———執筆中に筆が止まってしまった時は何をしてリフレッシュしていますか?

とまるというか、次に彼らがどういう行動をするのか、なにを言うのか、見えなくなるときがあります。
そうすると散歩します。 公園を抜けてコンビニへいって、木々や鳥や子どもを眺めていると脳内の視野もひろがっていき、作品の人物たちが自然と動きだします。

———先生の一番の癒しとは何ですか?

小説を書くことです。

———先生の宝物を教えてください。

挿絵をお願いした絵描きさんの絵たち。
読者様から頂戴した手紙やプレゼントたち。
小説を書き始めてデビューもしていなかったころ、初めて手紙をくださったかたからもらった木彫りの天使。

担当や友だちや読者様がくれた言葉も、と言おうと思いましたが、宝物というよりは、わたしを学ばせて導いてくれる光でした。

———先生の作品には、魅力的な女性がよく登場されますが、女性を描くときのこだわりや先生ならではの決めごと等ありましたらお教えください。

「同性愛の辛さ」を描くことも信念としているのですが、それは男女それぞれがいてこそ成りたつものだと思っています。
なので、ボーイズラブの場合は女性も率先して真摯に描いていきたいと考えています。
個々の性格や外見にこだわりはあれど、むしろ純粋に好きな想いでしか描いていません。 女の子も大好きです。

そういった信念があることから、挿絵をお願いする絵描きさんに対しても「女性も楽しく描いている人」というのをひそかに条件にさせていただいています。
ツイッタなど拝見して「女の子のおっぱーい」とかおっしゃっていると、よしお願いしよう、と意気ごむんです。

———今までの作品の中で担当編集との打ち合わせで一番印象に残った出来事はありますか?

どんなことも日々の端々でよく思い返します。

大事にしているのは、一作目の『君に降る白』のあと「編集者になる前から朝丘さんのこと知ってたよ」と聞かせていただいたのを機に、おたがいいろいろ披瀝した日のことです。
どうやってわたしの担当になったのか教えてくれましたし、わたしもなにに悩み、なにを目指しているのか、すべて話しました。
それはいまもおなじで、パートナーとして自分の葛藤は包み隠さず話すようにしていますし、「朝丘さんなんなのもう…」とあしらってくれる人柄に救われてもいます。
ドライかと思いきや、『あめの帰るところ』の修正をしていたとき、わたしが『携帯電話で一番星の写真を撮ったよ』と書いた部分に対し、「月にしましょう。だってわたしも携帯電話で星を撮ったことありますけど、撮れなかったから!」と指摘してくれた、乙女な人だったりもします。
ツイッタでも裏話をしましたが、Skypeで話ながらわたしが真剣に文章修正しているってのに、チャットで「\(^o^)/」とか送って邪魔してきて「暇なんだもん」とか可愛いことも言います。
担当になって一番最初に「わたし褒めませんから」と宣言してくれたところも好きです。手放しで持ちあげる人やお世辞言う人が担当だと、読者様に喜んでいただける本がつくれないので。
おたがい真剣すぎるので、本をつくっていると毎回必ず一度は険悪なムードになるんですけど、和解する都度、それまで以上に絆が深まっているのも感じます。

出会ってから七年のつきあいになります。 信頼している担当にも恩返しになる作品を贈り続けていきたいです。

———今回、タイトルにも「雨」という言葉が入っており、また朝丘先生自身も「雨」がお好きとのことですが、先生が「雨」をお好きな理由はなんでしょうか?

小説を書き始めたころから不思議とつきまとわれるようになりました。
昔はそんなことなかったのですが、いまは執筆に熱中していたり、重要な場面を書いていたりすると外に雨が降っています。
それに、曇り空のときに外出すると必ず降ります。
連れがいて降ってくると「やっぱりね」「わかってたけどね」とため息をつかれます。
会社員だったころ先輩に「あんたと一緒に帰ると降るからひとりで帰って」と拒絶されたのがいまでも忘れられないです。結局降ってげんなりさせました。
でも晴れすぎていると蒸発して倒れてしまうので、雨のしずけさとすずしさがやっぱり心地いいです。

———先生が作品を書くなかで、一番嬉しい瞬間とはどんなときですか?

登場人物たちが幸せなのも苦しいのも、恋する相手に出会えた証拠なのでそれぞれ全部嬉しいです。

ふたりの心が通じあう瞬間は心も震えて、初めてのキスとか、手繋ぎとか、セックスとか、触れあうときは涙がでるぐらい一緒に嬉しくなります。
セックスシーンも、その後のピロートークもお風呂も、いつまでもいつまでも書いていたくなります。
好きで好きで片想いで報われないあいだも、傷つくことのできる幸せを強く感じて満たされます。
たとえ一緒にいられなくなっても、相手の存在が刻まれたその後の人生は孤独じゃなく幸福に違いない、だからやっぱり嬉しいです。

———最後に読者の方にメッセージをお願いします。

これまで自身のことを「作家」「小説家」と言うときは、そこに到達していない自分への戒めのような気持ちがつねにありました。

書いてきた作品に後悔はありませんし、しません。そのときの精一杯だったと言い切れます。
ですが反省点は必ずあり、自分は未熟な成長途中のままで、作家、小説家と堂々と言うには力不足であると歯噛みしていたのです。
だから文章や物語づくりについて勉強しながら、どうしたら自分の伝えたいことが多くの読者様に伝えられるか、出版社にも絵描きさんにも読者様にも喜んでいただけるかと、作品を書くごとに懊悩し続けてきました。

考えすぎてがちがちになっていたその自分の心が晴れたのが『坂道のソラ』以降です。
あのころ、あ、この歩き方で間違ってなかったんだ、と思えました。
成長したくてどんなに悩んでも、その悩みの方向が間違っていたら意味がありません。でも「正解」の尻尾を掴むことができたのです。
しかしそれはわたしの力ではなく、yoco先生の魅力的な絵が読者様の心をこちらにむけてくださったのが大きなきっかけだったのだと自覚しています。
yoco先生がくれたものは、たしかな一筋の光明でした。

今回、四六判というお仕事を頂戴して『Heaven's Rain 天国の雨』のふたりが降りてきたとき、わたしのなかに再びyoco先生の絵で彼らが生き始めました。
ただでさえ責任重大なのに、『ソラ』を好いてくださった読者様にも『ソラ』と同等かそれ以上の感動をお贈りしなければならない、yoco先生の名前も汚すわけにはいかない、というプレッシャーも背負ったわけなのですが、それでいい、挑みたい、挑める、と思いました。

そうして完成した今作は確実にいままでのわたしではない、でもわたしらしさが満ちあふれた一歩です。
ようやく自分のことを作家で小説家だと、気後れなく言えるようになりました。

とはいえ一歩にすぎません。遅すぎる一歩です。
反省しつつ、今後も成長していくために努力し続けていきます。
なので、よろしければまず『Heaven's Rain 天国の雨』の彼らに会ってやってください。

死別の場面もありません、別れもありません、切なくて泣ける物語でもありません。
唯一の相手と永遠に結ばれる喜びに満たされて、熱い至福感で胸が千切れる、ごくごく単純な物語です。 これがわたしの幸福観です。

お贈りするために、魂を削って制作陣全員で細部までこだわり抜いて、大事につくりこんできました。
読者様の心にも触れることができましたら、こんなに幸せなことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします。

yoco先生の人物ラフ公開

yoco先生による、人物ラフイラストです。

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 ご参加くださった読者の皆様、ありがとうございました

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