「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」著:朝丘 戻/ill:yoco

あらすじ

書誌情報
「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」
著:朝丘 戻/ill:yoco [価格:本体1,800円+税]
ISBNコード:978-4-86134-786-3/判型・仕様:四六判ソフトカバー

人物紹介

試し読み

「ないね」
 間髪入れずにこたえると瑛仁さんはまた苦笑した。
「兄弟そろって迷惑かけてすまないね」
 謝罪。
 瑛仁さんは俺に謝って、そしてそれだけだった。俺の肩から手を離して麦茶の残りを飲む。
「……ううん」
 俺も再び笑顔らしきものを浮かべてガラス戸の外へ視線を逃がした。屋根に遮られてすきまからしか望めない夜空には雲が薄白くのびてはりついており、星のようなものもひとつだけまたたいている。背後で瑛仁さんがコップをおいて「寝よう」と横になる気配がある。
 瑛仁さんの口調や感情は一ミリも乱れなかった。麦茶で潤したはずの喉が乾いてへばりついている。汗ばんだ身体が冷えて気怠さばかりが腕や脚に重たくまとわりついている。
 謝られたくなどなかった。


 翌日、また暁天さんがやってきた。飄々とした足どりでカウンターへきて、ごくわずかに微笑む。
「こんばんは」
 俺も「こんばんは」と返したが、すこし無愛想だったかもしれない。
「昨日はいなかったね」
「はい、お休みいただいてました。ご注文をどうぞ」
「公園で食べるならやっぱり丼ものがいいかな」
 その意味ありげな呟きを受けながして、メニューをしめす。
「丼ものでしたら定番のカツ丼や親子丼のほかに、かに玉丼や鶏チリ玉子丼もおすすめです」
「鶏チリ玉子丼っていいね。それにします」
「かしこまりました」
 注文伝票を切って背後の厨房にお願いする。
「昨日スペのりを食べたよ。教えてもらったとおり具だくさんで美味しかった」
 暁天さんはまだカウンターから退かない。「ありがとうございます」と笑顔で返したけれど、
「今日もバイトが終わったら一緒に散歩しよう」
 と誘われてすぐさま表情が崩れた。
「困ります」
「昨日は兄といたの」
「厨房に聞こえるからやめてください」
「弟特権を利用しようかな」
「特権?」
「きみの存在は兄の家庭も、兄の奥さんとうちの家族をも壊しかねない。その秘密を俺は握ってる」
「……ぶちまけられたくなかったらついてこいっていう脅迫ですか」
「不本意だけど脅迫してる」
 カッとなった。
「すみません。俺が好きなのは瑛仁さんです。彼以外の人とつきあう気はないんです」
 本人には絶対言えない告白をぶつけて溜飲がさがる快感と解放感を得た。
 瑛仁さんが俺に好きだと言わないことも俺が言えないことも、納得したうえでのつきあいだった。それでよかった。なのに昨夜瑛仁さんに謝られて俺は傷つき、傷ついてしまった事実に憤っていた。なにもかもこの人が現れたせいだ。暁天さんが俺たちの秩序を狂わせていく。
「きみが誰を想っていてもかまわない。いこう、ほんの三十分程度の散歩だよ」
 拒絶すらものともしない彼に苛だって反論しようとしたとき、「どうもー」とべつの客がやってきた。暁天さんがベンチへ退いて、俺も笑顔に切りかえ「いらっしゃいませ」と接客する。
 注文の鶏チリができて会計がすむと、彼は「むかえにくる」と言い残して去っていった。

 九時、宣言どおり暁天さんはまた外灯横に立って待っていた。
 幸い自宅は彼がいる道と反対方面なので、見なかったふりをして身をひるがえし、足早に帰ろうとしたら、うしろから走ってきて手首を掴まれた。
「いたいっ」
「リン」
「警察呼びますよ!?」
「〝ストーカーだ〟って? 間違いじゃないけど、俺たちの関係を暴露すればきみのほうが不利だろ。兄の不倫相手を戒めたかったって言ったら警察はどっちに同情してくれるかな」
「卑怯です」
 俺は病のせいで走れない。もがいて抵抗しても力の差も歴然としていて逃げられなかった。
「一緒にいこう。話し相手になってくれるだけでいい」
 朴訥そうなくせに声と掌だけは熱くて、俺の腕を掴んで離さない。せめてもの反抗心で睨んで不快感をしめしたが、ここで逃げたところで明日になればまた弁当屋にこられて堂々めぐりになるのは予想できた。決着をつけるしか断ちきる方法はないのだ。
 心だけはあけ渡すものか、と目で訴えて手をふり払い、公園へむかって自ら歩きだす。入口をとおると一昨日とおなじコースをたどった。草原を横切って傾斜した道をくだり、湿地帯へ。
「身体を動かすと生きてることを実感できるよ。昔は地に足がついてなかったから」
 鷹揚な態度で、暁天さんも距離を保ってついてくる。
「たしかに暁天さんは浮世離れしてます」
「ああ、言葉を間違えた。〝昔は〟じゃない。〝リンに会うまでは〟地に足がついてなかった」
「歯の浮くセリフがお上手ですね」
「きみが好きだからね」
 隣にやってきた。
「……この短い会話のあいだに二回も〝浮く〟って言われたな」
 悠然と苦笑している横顔が癪にさわる。
「浮いてますよ、常識からも」
「まただ。リンは言葉のセンスがいいね。でも常識を説かれるのは解せない」
「男好きだからでしょうか。だったら暁天さんもおなじでしょう」
「そうだね、おなじだしきみを好きだから兄と別れて俺といてほしい」
「すみません、ストーカーとつきあう趣味はありません」
「よそよそしさがなくなってきたね」
 嬉しいよ、と続けて彼は笑った。嬉しがるところじゃないだろう。
 月明かりはあるけれど樹木の生い茂る場所へ入ると重なりあった葉が傘になり光を遮断してしまう。横の池の水音を聴きつつ薄暗い道を目を凝らして歩いた。
「リンは日中なにしてるの」
 彼は瑛仁さんを兄さんと呼ぶらしいが、俺のことは会った瞬間から馴れ馴れしく呼び捨てている。
「図書館にいったり映画観たり料理したり、友だちと遊んだり、いろいろです」
「兄とはどれぐらいの頻度で会ってる」
「弁当屋でほとんど毎晩」
 正直に教えればまた脅迫のネタにされるに違いないのでごまかしたら、
「リン」
 怒気のまざったきつい口調で押さえつけられた。
「……プライベートでは一ヶ月に一度か二度です」
 こっちも不満を抑えた低い声になった。
「思ったより多くはないんだね」
 関係ないだろ、と口汚くつっぱねてやれたらいいのに。
「暁天さんとは仲がよくないって聞きました」
「仲がよくないっていうのは正しくないね。おたがいのことに興味を持ってないんだよ。個人を尊重してるっていうのかな」
「尊重って、綺麗な屁理屈ですね」
「わざわざ汚せるほどの交流もない。喧嘩すらまともにした経験がないから」
「決定的な理由があるわけじゃないんですか。——子どものころはふたりでひとつの部屋でした?」
 ふいに腕を掴んで歩みをとめられた。暗闇のなか足もとに注意をとられてすすんでいたから我に返って顔をあげると、自分を見つめているらしい暁天さんの黒い影がある。
「これ以上は無償で教えたくないな。手を繋いでくれたらこたえてもいい」
「脅迫の次はセクハラですか」
「きみが知りたいのは兄弟仲じゃなくて兄の過去だろ。俺は利用されてるんだから要求をひとつ飲んでもらうぐらいなら理に適ってる」
「最後には身体まで求められるんでしょうか」
「いや。……そこまでして兄への想いをしめされたらさすがに落ちこむ」
 影が軽く俯いた。表情は見えないがしょげたのは十二分に伝わってきた。ここは暗いのに彼の頭上の木立越しにひろがる夜空は明るい。
「好きでもない相手と寝るぐらいだったら本人に直接訊きます」
 そんなことできない、と知っていて嘯いたのはこの人を傷つけて解放されたかったからだ。
「賢明なこたえだね」
 暁天さんの手が名残惜しげにゆっくり離れていく。
 風に煽られて枝がしなり、樹葉がこすれてざわめいている。太陽の香りを含んだ森林の空気は相変わらず心を癒やしてくれるから、胸の底で怒りと安らぎが混沌としていて感情も不安定に揺らぐ。
 遊具広場にでると目が利くようになった。

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書店員様の声

今回、前半200ページ弱を先行して書店員様に読んでいただきました。
そこで、感想の一部をご紹介致します!!

感想をお送りいただきました書店員の皆様、ありがとうございました。

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朝丘戻先生スペシャルインタビュー

新作「Heaven’s Rain 天国の雨」は朝丘先生の初の四六判小説であり、448Pという大ボリュームの1冊になりました!
そんな特別な1冊の発売を記念して、作品のこと、朝丘先生のことをたくさん伺いました!

●作品について

———本作のテーマ、内容を簡単にお教えください。

自分が小説をとおして訴え続けている、自身の幸福観がテーマの柱です。

それを再び新たに鮮やかに掘りさげるために、
今回は現代ファンタジーという世界で、羽根のないおじさん天使と、病弱な少年の出会いを描きました。

———この作品を描こうと思ったきっかけはなんですか?

降りてきた、としか言いようがないです。五年前のことです。
きっかけは作品によって違いますが、今作は最初におじさん天使である暁天と、彼と恋するリンの姿が見えてきたので、そこから物語をかためていきました。

———執筆期間はどのくらいでしたか?

約半年と一ヶ月です。

———凜、暁天の名前の由来などはありますか?

由来はありません。 名前はいつも、ぱっと浮かんだものを故意に与えています。
逆に、ぱっとでないときは「この人はいま生まれる運命じゃないんだな」と思っていったん放置したりするんです。

ただし名前にあてた漢字には、全員理由があります。
作品を読んでくださったかたに、彼らの人格などから感じとっていただけたらとても嬉しく思います。

———凜、暁天のイメージモデルがいましたら教えてください。

絵をお願いする際にyoco先生に伝えた髪型、髭、なんかのモデルはいます。
齟齬がないようにしたかったからで、それ以上でも以下でもありません。
が、内緒にさせてください……わたしは思い出すたんびに笑ってしまいます。
yoco先生はどう感じられたんだろう。
ファンというわけでは、なかったんです、格好いいとは思ってるけど……。

———最初に生まれた人物は?

上記でさきにご紹介させていただいてしまいましたが、暁天とリンのふたりです。

———先生が一番描きたかったシーンはどこですか?

すべてです。

———書いていて楽しかった、また辛かったシーンなどはありますか?

すべて楽しくて、すべて胸が苦しかったです。

———初めての四六判・小冊子付き限定版ということで、一番ここをこだわった! という点があったら教えてください。

すべてにおいて細部まで手を抜かないこと、をいつも以上に心がけました。

作品は、出版社、担当、挿絵担当の絵描きさん、読者様への贈りものだと思っています。
内部にはどんなに迷惑をかけてもかまわない、素晴らしい一冊にしてそれで責任をとるから、とにかく読者様に胸を張って贈れるものをつくる、と考えてつねにむきあっています。
今回も自分の作家力のなさと、そのうえでの四六判を出版するという責任の重さを自覚していたぶん、物語、絵、キャッチ、装丁、帯、販売方法、なにもかもすべて真剣にとりくみ、ご尽力くださる方々とともに丹精こめてつくってきました。
一番、なんてありません。
すべてにおいて全員の心と努力がつみ重なって生まれた、こだわりの一冊です。

●朝丘先生について

———朝丘先生が小説家になろうと思ったきっかけはありますか?

ある作家の作品に出会ったのがきっかけです。

昔「やおい」を激しく嫌悪していたころ、親友が「わたしハマったかも……」と告白してくれて、「これはいけない。親友の気持ちを理解しなければ」と手にとった本がその小説でした。
それまでわたしも絵を描いていましたが、その小説に出会ったとき「自分の書いている絵に意志があるのか?」と思い至って絶望しました。
空っぽだったんです。本当は限界も感じていました。絵には劣等感も向上心も芽生えなかったから。

それでその想いを若気の至りで作家さんへ手紙にしたためて送ったら、わたしの「意志を持って、他人に伝えるためのものを書きたいと思った」という言葉に、「あなたがデビューしてくるのを待っていますよ」というお返事を頂戴してしまいました。
「えっ、デビューなんてだいそれたことは考えてなかったのに……」と動揺しましたが、次の瞬間にはワープロを抱えて部屋へ駆けこんでいました。

その後デビューしたあとは作家さんに直接ご報告にもいきました。
いまでもわたしにとってその方以上の作家はいませんし、支えであり原点です。
一生超えられない、超えるつもりもない師。
自分の人生に対して運命なんて大仰なものをあげるとしたら、これが唯一の、その奇跡です。

———執筆中にしていること、たとえば聴いている音楽など、欠かさないことなどございますか?

ある物を身につけて、それをつけているあいだは作品の彼らに恥じる行為は絶対にしない、と誓っています。
飲酒とか、エッチな本を読むとか、そういう欲望の一切を禁止するんです。

音楽は作品イメージにあわせた一曲を延々とリピートし続けます。
だいたいしっとりした曲なので、たまに頭が破裂しそうになります。

だから執筆が落ちついたらエッチな本を読んでがちゃがちゃした曲を存分に聴きます。けど、またすぐ我慢できずに書き始める、というループです。
余談ですが、雑誌ダリアさんで連載が始まる西野先生原作の漫画がすげえ楽しみなので、エロ解放期間にまとめ読みしよう、と計画しています。

———執筆中に筆が止まってしまった時は何をしてリフレッシュしていますか?

とまるというか、次に彼らがどういう行動をするのか、なにを言うのか、見えなくなるときがあります。
そうすると散歩します。 公園を抜けてコンビニへいって、木々や鳥や子どもを眺めていると脳内の視野もひろがっていき、作品の人物たちが自然と動きだします。

———先生の一番の癒しとは何ですか?

小説を書くことです。

———先生の宝物を教えてください。

挿絵をお願いした絵描きさんの絵たち。
読者様から頂戴した手紙やプレゼントたち。
小説を書き始めてデビューもしていなかったころ、初めて手紙をくださったかたからもらった木彫りの天使。

担当や友だちや読者様がくれた言葉も、と言おうと思いましたが、宝物というよりは、わたしを学ばせて導いてくれる光でした。

———先生の作品には、魅力的な女性がよく登場されますが、女性を描くときのこだわりや先生ならではの決めごと等ありましたらお教えください。

「同性愛の辛さ」を描くことも信念としているのですが、それは男女それぞれがいてこそ成りたつものだと思っています。
なので、ボーイズラブの場合は女性も率先して真摯に描いていきたいと考えています。
個々の性格や外見にこだわりはあれど、むしろ純粋に好きな想いでしか描いていません。 女の子も大好きです。

そういった信念があることから、挿絵をお願いする絵描きさんに対しても「女性も楽しく描いている人」というのをひそかに条件にさせていただいています。
ツイッタなど拝見して「女の子のおっぱーい」とかおっしゃっていると、よしお願いしよう、と意気ごむんです。

———今までの作品の中で担当編集との打ち合わせで一番印象に残った出来事はありますか?

どんなことも日々の端々でよく思い返します。

大事にしているのは、一作目の『君に降る白』のあと「編集者になる前から朝丘さんのこと知ってたよ」と聞かせていただいたのを機に、おたがいいろいろ披瀝した日のことです。
どうやってわたしの担当になったのか教えてくれましたし、わたしもなにに悩み、なにを目指しているのか、すべて話しました。
それはいまもおなじで、パートナーとして自分の葛藤は包み隠さず話すようにしていますし、「朝丘さんなんなのもう…」とあしらってくれる人柄に救われてもいます。
ドライかと思いきや、『あめの帰るところ』の修正をしていたとき、わたしが『携帯電話で一番星の写真を撮ったよ』と書いた部分に対し、「月にしましょう。だってわたしも携帯電話で星を撮ったことありますけど、撮れなかったから!」と指摘してくれた、乙女な人だったりもします。
ツイッタでも裏話をしましたが、Skypeで話ながらわたしが真剣に文章修正しているってのに、チャットで「\(^o^)/」とか送って邪魔してきて「暇なんだもん」とか可愛いことも言います。
担当になって一番最初に「わたし褒めませんから」と宣言してくれたところも好きです。手放しで持ちあげる人やお世辞言う人が担当だと、読者様に喜んでいただける本がつくれないので。
おたがい真剣すぎるので、本をつくっていると毎回必ず一度は険悪なムードになるんですけど、和解する都度、それまで以上に絆が深まっているのも感じます。

出会ってから七年のつきあいになります。 信頼している担当にも恩返しになる作品を贈り続けていきたいです。

———今回、タイトルにも「雨」という言葉が入っており、また朝丘先生自身も「雨」がお好きとのことですが、先生が「雨」をお好きな理由はなんでしょうか?

小説を書き始めたころから不思議とつきまとわれるようになりました。
昔はそんなことなかったのですが、いまは執筆に熱中していたり、重要な場面を書いていたりすると外に雨が降っています。
それに、曇り空のときに外出すると必ず降ります。
連れがいて降ってくると「やっぱりね」「わかってたけどね」とため息をつかれます。
会社員だったころ先輩に「あんたと一緒に帰ると降るからひとりで帰って」と拒絶されたのがいまでも忘れられないです。結局降ってげんなりさせました。
でも晴れすぎていると蒸発して倒れてしまうので、雨のしずけさとすずしさがやっぱり心地いいです。

———先生が作品を書くなかで、一番嬉しい瞬間とはどんなときですか?

登場人物たちが幸せなのも苦しいのも、恋する相手に出会えた証拠なのでそれぞれ全部嬉しいです。

ふたりの心が通じあう瞬間は心も震えて、初めてのキスとか、手繋ぎとか、セックスとか、触れあうときは涙がでるぐらい一緒に嬉しくなります。
セックスシーンも、その後のピロートークもお風呂も、いつまでもいつまでも書いていたくなります。
好きで好きで片想いで報われないあいだも、傷つくことのできる幸せを強く感じて満たされます。
たとえ一緒にいられなくなっても、相手の存在が刻まれたその後の人生は孤独じゃなく幸福に違いない、だからやっぱり嬉しいです。

———最後に読者の方にメッセージをお願いします。

これまで自身のことを「作家」「小説家」と言うときは、そこに到達していない自分への戒めのような気持ちがつねにありました。

書いてきた作品に後悔はありませんし、しません。そのときの精一杯だったと言い切れます。
ですが反省点は必ずあり、自分は未熟な成長途中のままで、作家、小説家と堂々と言うには力不足であると歯噛みしていたのです。
だから文章や物語づくりについて勉強しながら、どうしたら自分の伝えたいことが多くの読者様に伝えられるか、出版社にも絵描きさんにも読者様にも喜んでいただけるかと、作品を書くごとに懊悩し続けてきました。

考えすぎてがちがちになっていたその自分の心が晴れたのが『坂道のソラ』以降です。
あのころ、あ、この歩き方で間違ってなかったんだ、と思えました。
成長したくてどんなに悩んでも、その悩みの方向が間違っていたら意味がありません。でも「正解」の尻尾を掴むことができたのです。
しかしそれはわたしの力ではなく、yoco先生の魅力的な絵が読者様の心をこちらにむけてくださったのが大きなきっかけだったのだと自覚しています。
yoco先生がくれたものは、たしかな一筋の光明でした。

今回、四六判というお仕事を頂戴して『Heaven's Rain 天国の雨』のふたりが降りてきたとき、わたしのなかに再びyoco先生の絵で彼らが生き始めました。
ただでさえ責任重大なのに、『ソラ』を好いてくださった読者様にも『ソラ』と同等かそれ以上の感動をお贈りしなければならない、yoco先生の名前も汚すわけにはいかない、というプレッシャーも背負ったわけなのですが、それでいい、挑みたい、挑める、と思いました。

そうして完成した今作は確実にいままでのわたしではない、でもわたしらしさが満ちあふれた一歩です。
ようやく自分のことを作家で小説家だと、気後れなく言えるようになりました。

とはいえ一歩にすぎません。遅すぎる一歩です。
反省しつつ、今後も成長していくために努力し続けていきます。
なので、よろしければまず『Heaven's Rain 天国の雨』の彼らに会ってやってください。

死別の場面もありません、別れもありません、切なくて泣ける物語でもありません。
唯一の相手と永遠に結ばれる喜びに満たされて、熱い至福感で胸が千切れる、ごくごく単純な物語です。 これがわたしの幸福観です。

お贈りするために、魂を削って制作陣全員で細部までこだわり抜いて、大事につくりこんできました。
読者様の心にも触れることができましたら、こんなに幸せなことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします。

yoco先生の人物ラフ公開

yoco先生による、人物ラフイラストです。

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 ご参加くださった読者の皆様、ありがとうございました

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