「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」著:朝丘 戻/ill:yoco

あらすじ

書誌情報
「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」
著:朝丘 戻/ill:yoco [価格:本体1,800円+税]
ISBNコード:978-4-86134-786-3/判型・仕様:四六判ソフトカバー

人物紹介

試し読み

「リン、」
 病室へ戻ったらリンが苦渋に顔をゆがめていた。
「リン」
 俺に気づいて目をあけると、また無理に笑って見せる。
「辛いか」
「んー……? ちょこっとね」
「俺に気をつかって笑う必要はない」
「ふは、なんだよ怖い顔して。心配してもらえんのは単純に嬉しいよ」
 変な奴、と吹いた笑顔には嘘がなかったので多少はほっとした。
 しかし、なにかに縋って安心したい、という本心も聞こえてきて、周囲を見まわして悩んだすえにムーさんを顔に押しつけた。
「なっ……あ、暑苦しいだろ」
 抗議を受けた。
 再び考えて、しかたなく自分の手の感覚を研ぎ澄ませてリンの右手を覆う。
「わ、天使の手って冷たー……」
 生きてないからね、という返答は躊躇われた。
「天使って人間の願いがわかるのかなー……〝天使の歌声〟っていうのはもう信じてないけど」
 苦しげではあるが、リンの笑顔から濁りがとれて晴れやかになっていく。
「願いがわかるのは、リンの心の声を聞いてるからだよ」
「え、心読まれてんの?」
「心にも声量があるから全部じゃない。強く訴えていることや誰かに聞いてほしいと懇願してる吐露ならほぼ正確に聞きとれる」
「なんだそっか……ほんと隠し事できねえな」
 リンの声のトーンがさがり、目をゆっくりとじて深く息を吸った。
「心を読まれるのはリンには不都合か。いやな思いをさせた?」
「そりゃあね……やっほーって喜べることじゃないよ。天使って言われても俺には人間に見えるし。初対面の髭面の男の人に、自分の自慰行為まで見られてたのもさー……」
「初対面じゃない」
「だからそれも、あなたと俺は違うでしょって話」
 俺の存在はリンに不快感を与えているのか。だとしたらまたその辛さに見あう幸福を与えなくてはならない。
「……命ってさ、意味、あるのかな」
 ふいにリンが言った。まだ目をとじて天井と対峙している。
「俺、走ったこともなくてスポーツ無理だし、頭もよくないし、このまま死ぬだけで……産まれたときから親にも手術代とか入院費とか、金ばっかりかけさせてるんだよね。生まれなければよかったんじゃないかって、よく考える」
 リンの手を両手で握り締めた。
「魂には使命がある。短命で産まれることにも意味はあるよ」
「そういえば昨日も使命って言ってたね」
「ああ。たとえば産まれて間もない子どもも事故や事件で亡くなって報道されると、それを知った人間たちの心に影響を与える。〝かわいそうだ、自分の子は大事にしよう〟〝毎日注意深く生活しよう〟〝自分は生きられて幸せだ〟とか。するとその子どもは大きな使命を果たしたことになる」
「そんなのが使命?」
「スポーツや勉強の才能だけが使命というわけじゃない。他人に認識されると、その瞬間からどんなに微細でも相手の心を動かす。動かしたらそれが意味になる」
「〝あの子可愛い〟とか〝あいつ不細工〟とかも?」
「そう」
「えー……いるのにいないみたいな、存在感うすい人もいるじゃん」
「いまリンの口からでた時点で、その存在感のうすい人にも意味が生まれたね」
「え、こんなのも意味?」
「そうだよ。リンと俺のあいだで会話の話題になったのがもうその人の命の意味、すなわち使命だった。俺の言葉をリンが信じるための手助けをしてくれた」
「なんか騙されてるみたいだけど、まあ……うん、たしかにね」
「とはいえ、その人はリンに小馬鹿にされる使命だけを持って生まれたわけでもない。使命はみんな、大なり小なり複数持って生まれる」
「小馬鹿言ったな」
「無駄な命はない。リンの命にも尊い意味があるんだよ」
 重たい瞼を持ちあげて俺を見返したリンが、照れくさそうに、すこしいたずらっぽく微笑んだ。
「……あんがと。天使ならきっとそう言って慰めてくれると思って、ちょっと甘えたよ」
 甘える……。
「いまの会話が嬉しかったのか」
「うん」
「そうか。じゃあもっと甘えていい。リンが辛いときに幸せを与えるのが俺の使命だ」
 リンが口内で笑いだした。痛む胸を手で押さえて、ひかえめに笑い続ける。
「なにか楽しかったか」
「楽しいっていうか、口説き文句みたいで……」
「事実を言っただけだよ」
「わかってるけど」
 俺の掌からリンがそろりと手を離す。
「あなたの恋人ってどんな人だったの」
「よく憶えてない。リンより身長が高くて中性的な人だったと思う」
「美人ってこと?」
「そうじゃないかな」
「興味なさげだね」
「昨日も教えただろう。そんなふうにしか想い返せないんだよ」
「あなたには恋人の命の意味がなくなったの」
 問うてくるリンの目は澄み渡っていて素直で哀しげだからこそ、見つめられていると気まずい気分にさせられた。
「もちろんあるよ。彼との出会いが現在の自分に繋がっている。いまリンに詰問されて、いたたまれない気分にさせられているのも意味なんだろうね」
 するとリンはまたふっと吹いて笑った。
「なんでもかんでも無表情で言うんだもんなー……」
 でもまたすぐに眉根を寄せて目を瞑り、胸のパジャマを握り締める。「リン」と呼ぶと浅く息を吸って、吐いて、大丈夫、治る治る、と心のなかで懸命に唱えた。
「あなたは、……名前はないの」
 痛みをこらえてしんどそうにしながらも会話を繋ごうとする。
「すまない、名前はない」
「そっか……ないと不便だよ、呼びづらくて」
「いままでは不便に思うことがなかった」
「呼んでくれる人がいなかったってこと? ……ほんとに、ひとりだね」
 天使、天使だからな、んー……、とリンが深呼吸をくり返して悩んでいる。はたと我に返った。俺がいるせいでリンは、会話をしなければ、と身体に鞭打って無茶をしているんじゃないか?
「天って〝たか〟とも読むよね。タカさんってどう? そう呼ばせてよ」
 リン、と洩らすとリンはやっとのことで再び目をうすくひらき、唇を震わせて微笑んだ。
「タカさん……藤丘先輩にも、俺と会った意味ってあるのかな」
 潤んだ目が切実に、そうあってほしいと願っている。
「あるよ」
 リンは目をとじまいとして瞼に力を入れながら俺を見あげていた。泣きそうだった。
「……ありがとう」
 嘘をついてくれて——と心がひそかに続ける。真実を言ったのに、リンは信じていなかった。
「リン正直にこたえてほしい。俺が傍にいるのはリンを幸せにするか、不幸せにするか、どっちだ」
「どっちって……タカさんが何者かって考えると頭が混乱するよ。でも傍にずっと話し相手がいてくれるのは嬉しいな」
 わかった、とうなずいた。冷たいと褒めてくれた掌でリンの額を撫でて脂汗を拭う。
「たぶん今日はこれから雨が降る。すこし寝たほうがいい」
 言い残して病室をあとにした。

 リンが頑固で優しい、他人を気づかう子だというのはよく知っていたはずたった。
 大丈夫か、と訊かれると、大丈夫、とうなずく。辛くないか、と心配されると、平気、と笑う。
 それを許せない幼馴染みの猛とは子どものころから幾度となく衝突し、結果いまでは必死に我慢して本当に限界だと悟ったら他人に縋るようになった、という成長もこの目でたしかめてきた。なのに幸せか不幸せかなどと質問して、無理矢理笑わせてしまった。たとえ邪魔だと感じていても、不幸せだからどこかにいってほしい、とリンの口からひきだしたがるのはエゴでしかなかった。
 ……なんだか調子が狂う。
 客観的に眺めているぶんにはリンの感情の変化も把握しやすくて、幸不幸を与えるのも容易かった。しかし自分が関わってしまうと、リンが喜んでいるのか哀しんでいるのか曖昧になっていく。
 猛と喧嘩したり藤丘を想ったりしているリンの、愉悦や憤りや、至福や葛藤、あの明白さはいったいなんだったのか。死期の影がつきまとう俺が見えてしまうこと自体不幸だと考えて幸福を与え続けていても駄目に決まっている。
 さっきは体調を崩していたから幸せを与えるのは間違っていなかったはずだが、今後はどうすればいいのだろう。癒やしと試練を交互に与えるための平等な判断がくだせるだろうか。
 自分の姿がいままでリンに見えなかったのは使命を正しく遂行するのに必要なことだったのかもしれない。けれど、じゃあなぜいま、リンの死を目前にして出会ってしまったのか。
 他人に認識されると、その瞬間からどんなに微細でも相手の心を動かす。動かしたらそれが意味になる——自分が口走った言葉にあげ足をとられる気分だ。

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書店員様の声

今回、前半200ページ弱を先行して書店員様に読んでいただきました。
そこで、感想の一部をご紹介致します!!

感想をお送りいただきました書店員の皆様、ありがとうございました。

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朝丘戻先生スペシャルインタビュー

新作「Heaven’s Rain 天国の雨」は朝丘先生の初の四六判小説であり、448Pという大ボリュームの1冊になりました!
そんな特別な1冊の発売を記念して、作品のこと、朝丘先生のことをたくさん伺いました!

●作品について

———本作のテーマ、内容を簡単にお教えください。

自分が小説をとおして訴え続けている、自身の幸福観がテーマの柱です。

それを再び新たに鮮やかに掘りさげるために、
今回は現代ファンタジーという世界で、羽根のないおじさん天使と、病弱な少年の出会いを描きました。

———この作品を描こうと思ったきっかけはなんですか?

降りてきた、としか言いようがないです。五年前のことです。
きっかけは作品によって違いますが、今作は最初におじさん天使である暁天と、彼と恋するリンの姿が見えてきたので、そこから物語をかためていきました。

———執筆期間はどのくらいでしたか?

約半年と一ヶ月です。

———凜、暁天の名前の由来などはありますか?

由来はありません。 名前はいつも、ぱっと浮かんだものを故意に与えています。
逆に、ぱっとでないときは「この人はいま生まれる運命じゃないんだな」と思っていったん放置したりするんです。

ただし名前にあてた漢字には、全員理由があります。
作品を読んでくださったかたに、彼らの人格などから感じとっていただけたらとても嬉しく思います。

———凜、暁天のイメージモデルがいましたら教えてください。

絵をお願いする際にyoco先生に伝えた髪型、髭、なんかのモデルはいます。
齟齬がないようにしたかったからで、それ以上でも以下でもありません。
が、内緒にさせてください……わたしは思い出すたんびに笑ってしまいます。
yoco先生はどう感じられたんだろう。
ファンというわけでは、なかったんです、格好いいとは思ってるけど……。

———最初に生まれた人物は?

上記でさきにご紹介させていただいてしまいましたが、暁天とリンのふたりです。

———先生が一番描きたかったシーンはどこですか?

すべてです。

———書いていて楽しかった、また辛かったシーンなどはありますか?

すべて楽しくて、すべて胸が苦しかったです。

———初めての四六判・小冊子付き限定版ということで、一番ここをこだわった! という点があったら教えてください。

すべてにおいて細部まで手を抜かないこと、をいつも以上に心がけました。

作品は、出版社、担当、挿絵担当の絵描きさん、読者様への贈りものだと思っています。
内部にはどんなに迷惑をかけてもかまわない、素晴らしい一冊にしてそれで責任をとるから、とにかく読者様に胸を張って贈れるものをつくる、と考えてつねにむきあっています。
今回も自分の作家力のなさと、そのうえでの四六判を出版するという責任の重さを自覚していたぶん、物語、絵、キャッチ、装丁、帯、販売方法、なにもかもすべて真剣にとりくみ、ご尽力くださる方々とともに丹精こめてつくってきました。
一番、なんてありません。
すべてにおいて全員の心と努力がつみ重なって生まれた、こだわりの一冊です。

●朝丘先生について

———朝丘先生が小説家になろうと思ったきっかけはありますか?

ある作家の作品に出会ったのがきっかけです。

昔「やおい」を激しく嫌悪していたころ、親友が「わたしハマったかも……」と告白してくれて、「これはいけない。親友の気持ちを理解しなければ」と手にとった本がその小説でした。
それまでわたしも絵を描いていましたが、その小説に出会ったとき「自分の書いている絵に意志があるのか?」と思い至って絶望しました。
空っぽだったんです。本当は限界も感じていました。絵には劣等感も向上心も芽生えなかったから。

それでその想いを若気の至りで作家さんへ手紙にしたためて送ったら、わたしの「意志を持って、他人に伝えるためのものを書きたいと思った」という言葉に、「あなたがデビューしてくるのを待っていますよ」というお返事を頂戴してしまいました。
「えっ、デビューなんてだいそれたことは考えてなかったのに……」と動揺しましたが、次の瞬間にはワープロを抱えて部屋へ駆けこんでいました。

その後デビューしたあとは作家さんに直接ご報告にもいきました。
いまでもわたしにとってその方以上の作家はいませんし、支えであり原点です。
一生超えられない、超えるつもりもない師。
自分の人生に対して運命なんて大仰なものをあげるとしたら、これが唯一の、その奇跡です。

———執筆中にしていること、たとえば聴いている音楽など、欠かさないことなどございますか?

ある物を身につけて、それをつけているあいだは作品の彼らに恥じる行為は絶対にしない、と誓っています。
飲酒とか、エッチな本を読むとか、そういう欲望の一切を禁止するんです。

音楽は作品イメージにあわせた一曲を延々とリピートし続けます。
だいたいしっとりした曲なので、たまに頭が破裂しそうになります。

だから執筆が落ちついたらエッチな本を読んでがちゃがちゃした曲を存分に聴きます。けど、またすぐ我慢できずに書き始める、というループです。
余談ですが、雑誌ダリアさんで連載が始まる西野先生原作の漫画がすげえ楽しみなので、エロ解放期間にまとめ読みしよう、と計画しています。

———執筆中に筆が止まってしまった時は何をしてリフレッシュしていますか?

とまるというか、次に彼らがどういう行動をするのか、なにを言うのか、見えなくなるときがあります。
そうすると散歩します。 公園を抜けてコンビニへいって、木々や鳥や子どもを眺めていると脳内の視野もひろがっていき、作品の人物たちが自然と動きだします。

———先生の一番の癒しとは何ですか?

小説を書くことです。

———先生の宝物を教えてください。

挿絵をお願いした絵描きさんの絵たち。
読者様から頂戴した手紙やプレゼントたち。
小説を書き始めてデビューもしていなかったころ、初めて手紙をくださったかたからもらった木彫りの天使。

担当や友だちや読者様がくれた言葉も、と言おうと思いましたが、宝物というよりは、わたしを学ばせて導いてくれる光でした。

———先生の作品には、魅力的な女性がよく登場されますが、女性を描くときのこだわりや先生ならではの決めごと等ありましたらお教えください。

「同性愛の辛さ」を描くことも信念としているのですが、それは男女それぞれがいてこそ成りたつものだと思っています。
なので、ボーイズラブの場合は女性も率先して真摯に描いていきたいと考えています。
個々の性格や外見にこだわりはあれど、むしろ純粋に好きな想いでしか描いていません。 女の子も大好きです。

そういった信念があることから、挿絵をお願いする絵描きさんに対しても「女性も楽しく描いている人」というのをひそかに条件にさせていただいています。
ツイッタなど拝見して「女の子のおっぱーい」とかおっしゃっていると、よしお願いしよう、と意気ごむんです。

———今までの作品の中で担当編集との打ち合わせで一番印象に残った出来事はありますか?

どんなことも日々の端々でよく思い返します。

大事にしているのは、一作目の『君に降る白』のあと「編集者になる前から朝丘さんのこと知ってたよ」と聞かせていただいたのを機に、おたがいいろいろ披瀝した日のことです。
どうやってわたしの担当になったのか教えてくれましたし、わたしもなにに悩み、なにを目指しているのか、すべて話しました。
それはいまもおなじで、パートナーとして自分の葛藤は包み隠さず話すようにしていますし、「朝丘さんなんなのもう…」とあしらってくれる人柄に救われてもいます。
ドライかと思いきや、『あめの帰るところ』の修正をしていたとき、わたしが『携帯電話で一番星の写真を撮ったよ』と書いた部分に対し、「月にしましょう。だってわたしも携帯電話で星を撮ったことありますけど、撮れなかったから!」と指摘してくれた、乙女な人だったりもします。
ツイッタでも裏話をしましたが、Skypeで話ながらわたしが真剣に文章修正しているってのに、チャットで「\(^o^)/」とか送って邪魔してきて「暇なんだもん」とか可愛いことも言います。
担当になって一番最初に「わたし褒めませんから」と宣言してくれたところも好きです。手放しで持ちあげる人やお世辞言う人が担当だと、読者様に喜んでいただける本がつくれないので。
おたがい真剣すぎるので、本をつくっていると毎回必ず一度は険悪なムードになるんですけど、和解する都度、それまで以上に絆が深まっているのも感じます。

出会ってから七年のつきあいになります。 信頼している担当にも恩返しになる作品を贈り続けていきたいです。

———今回、タイトルにも「雨」という言葉が入っており、また朝丘先生自身も「雨」がお好きとのことですが、先生が「雨」をお好きな理由はなんでしょうか?

小説を書き始めたころから不思議とつきまとわれるようになりました。
昔はそんなことなかったのですが、いまは執筆に熱中していたり、重要な場面を書いていたりすると外に雨が降っています。
それに、曇り空のときに外出すると必ず降ります。
連れがいて降ってくると「やっぱりね」「わかってたけどね」とため息をつかれます。
会社員だったころ先輩に「あんたと一緒に帰ると降るからひとりで帰って」と拒絶されたのがいまでも忘れられないです。結局降ってげんなりさせました。
でも晴れすぎていると蒸発して倒れてしまうので、雨のしずけさとすずしさがやっぱり心地いいです。

———先生が作品を書くなかで、一番嬉しい瞬間とはどんなときですか?

登場人物たちが幸せなのも苦しいのも、恋する相手に出会えた証拠なのでそれぞれ全部嬉しいです。

ふたりの心が通じあう瞬間は心も震えて、初めてのキスとか、手繋ぎとか、セックスとか、触れあうときは涙がでるぐらい一緒に嬉しくなります。
セックスシーンも、その後のピロートークもお風呂も、いつまでもいつまでも書いていたくなります。
好きで好きで片想いで報われないあいだも、傷つくことのできる幸せを強く感じて満たされます。
たとえ一緒にいられなくなっても、相手の存在が刻まれたその後の人生は孤独じゃなく幸福に違いない、だからやっぱり嬉しいです。

———最後に読者の方にメッセージをお願いします。

これまで自身のことを「作家」「小説家」と言うときは、そこに到達していない自分への戒めのような気持ちがつねにありました。

書いてきた作品に後悔はありませんし、しません。そのときの精一杯だったと言い切れます。
ですが反省点は必ずあり、自分は未熟な成長途中のままで、作家、小説家と堂々と言うには力不足であると歯噛みしていたのです。
だから文章や物語づくりについて勉強しながら、どうしたら自分の伝えたいことが多くの読者様に伝えられるか、出版社にも絵描きさんにも読者様にも喜んでいただけるかと、作品を書くごとに懊悩し続けてきました。

考えすぎてがちがちになっていたその自分の心が晴れたのが『坂道のソラ』以降です。
あのころ、あ、この歩き方で間違ってなかったんだ、と思えました。
成長したくてどんなに悩んでも、その悩みの方向が間違っていたら意味がありません。でも「正解」の尻尾を掴むことができたのです。
しかしそれはわたしの力ではなく、yoco先生の魅力的な絵が読者様の心をこちらにむけてくださったのが大きなきっかけだったのだと自覚しています。
yoco先生がくれたものは、たしかな一筋の光明でした。

今回、四六判というお仕事を頂戴して『Heaven's Rain 天国の雨』のふたりが降りてきたとき、わたしのなかに再びyoco先生の絵で彼らが生き始めました。
ただでさえ責任重大なのに、『ソラ』を好いてくださった読者様にも『ソラ』と同等かそれ以上の感動をお贈りしなければならない、yoco先生の名前も汚すわけにはいかない、というプレッシャーも背負ったわけなのですが、それでいい、挑みたい、挑める、と思いました。

そうして完成した今作は確実にいままでのわたしではない、でもわたしらしさが満ちあふれた一歩です。
ようやく自分のことを作家で小説家だと、気後れなく言えるようになりました。

とはいえ一歩にすぎません。遅すぎる一歩です。
反省しつつ、今後も成長していくために努力し続けていきます。
なので、よろしければまず『Heaven's Rain 天国の雨』の彼らに会ってやってください。

死別の場面もありません、別れもありません、切なくて泣ける物語でもありません。
唯一の相手と永遠に結ばれる喜びに満たされて、熱い至福感で胸が千切れる、ごくごく単純な物語です。 これがわたしの幸福観です。

お贈りするために、魂を削って制作陣全員で細部までこだわり抜いて、大事につくりこんできました。
読者様の心にも触れることができましたら、こんなに幸せなことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします。

yoco先生の人物ラフ公開

yoco先生による、人物ラフイラストです。

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 ご参加くださった読者の皆様、ありがとうございました

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